糖尿病をもつ女性が妊娠した場合(これを糖尿病合併妊娠と言います),赤ちゃんの先天
奇形や周産期死亡などが増加することが知られています.
しかし,妊娠前の管理を適切に行うことで,それらのリスクを低下させることが可能である
こともわかってきました.
そのためには,表に示すような状態を達成した上での計画妊娠が重要です.
1.妊娠前の血糖管理
糖尿病合併妊娠では,妊娠初期の母体の血糖値が高いほど赤ちゃんの先天奇形の発生が高率となります.そのため,妊娠前の母体の血糖値は正常に近ければ近いほど良いとされますが,ひとつの目安としてはHbA1cが6.5%未満であることが挙げられています.
2.妊娠前の合併症管理
糖尿病に伴う細小血管症は長期の罹病年数を経て発症するため,糖尿病をもつ女性が妊娠した時点で網膜症や腎症を合併している頻度は高くありません.
しかし,近年は若年で発症する2型糖尿病が増加していること,初産年齢が高齢化していることなど関係して,合併症を持った状態で妊娠する例も散見されます.
網膜症が存在する場合には,妊娠中の悪化が生じやすいため,妊娠前に治療が必
要です.福田分類の良性網膜症(単純網膜症や増殖停止網膜症)に安定した段階で妊娠を
計画しましょう.
糖尿病腎症が存在する場合には,妊娠後に母体の腎機能悪化,血圧上昇,妊娠高
血圧腎症や,それに伴う胎盤剥離や早産,帝王切開,子宮内発育遅延,低出生体重児など
のリスクが上昇すると報告されています.そのため,妊娠前に高血圧治療を行い,腎症2期(早期腎症)まで改善させてから妊娠を計画することが重要です.
3.妊娠前の体重管理
母体のやせは低出生児の原因なり,また,肥満は妊娠高血圧症候群や巨大児,帝王切開のリスクを高めることが知られています.妊娠前から非薬物療法(食事や運動療法)を通じて,体重を適切な水準に維持することが必要となります.
以上のことがらを達成するためには,患者さんご本人の努力だけでなく,パートナーやご家族の協力も必要となります.私たち医療従事者はチーム一丸となってサポートさせていただきたいと思っています.
(文責・糖尿病専門医 伊藤裕之)